東京地方裁判所 平成9年(ワ)8416号 判決 1998年2月25日
原告
株式会社バンダイ
右代表者代表取締役
茂木隆
原告
株式会社ウイズ
右代表者代表取締役
横井昭裕
原告両名訴訟代理人弁護士
伊藤真
同
小林幸夫
被告
株式会社永光
右代表者代表取締役
小山良
主文
一 被告は、別紙被告商品目録(一)記載のゲーム機を輸入し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
二 被告は、別紙被告商品目録(二)及び(三)記載のゲーム機を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、又は輸入してはならない。
三 被告は、別紙被告商品目録(一)ないし(三)記載のゲーム機を廃棄せよ。
四 被告は、原告株式会社バンダイに対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年八月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告バンダイのその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用はこれを四分し、その一を原告株式会社バンダイの負担とし、その余を被告の負担とする。
七 この判決は、第一項ないし第四項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項ないし第三項と同旨
2 被告は、原告株式会社バンダイに対し、金二億五〇〇〇万円及びこれに対する平成九年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 不正競争防止法に基づく請求
(一)(1) 原告株式会社バンダイ(以下「原告バンダイ」という。)は、玩具、遊戯用具、運動用具の企画、製造及び販売などを業とする株式会社である。
(2) 原告バンダイは、平成八年一〇月一〇日以降、別紙原告商品目録記載の形態からなるキーホルダー型液晶ゲーム機(以下「原告商品」という。)を「たまごっち」という商品名で販売している。
(二) 被告の行為
被告は、訴外株式会社ケイデイワイ(以下「訴外ケイデイワイ」という。)と共同して、平成九年四月上旬ころから、別紙被告商品目録(一)記載のキーホルダー型液晶ゲーム機(以下「イ号商品」という。)を輸入し、販売している。
(三) 不正競争防止法二条一項三号の不正競争行為
(1) イ号商品の形態は、縦約5.3センチメートル、横約4.3センチメートル、厚さ約1.8センチメートルの扁平した卵型をしていること、正面の中央やや上部に縦約2.1センチメートル、横約2.1センチメートルの大きさの白黒表示の液晶画面が組込まれていること、その下に三つの操作ボタンが設けられていることのほか、裏蓋の形状及びそのビス止めの位置にいたるまで、原告商品の形態と全く同じであり、液晶画面のまわりのギザギザ模様のへこみがないことにおいて原告商品の形態と異なるものの、全体として、両者の形態は、実質的に同一である。
しかも、イ号商品が、原告商品の商品名「たまごっち」に類似した「ニュータマゴウォッチ」という商品名で販売されていることからすると、イ号商品が原告商品の形態を模倣したものであることは明らかである。
(2) したがって、イ号商品を輸入、販売する被告の行為は、不正競争防止法二条一項三号の不正競争行為に当たる。
(四) 不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為
(1) 原告商品の形態の周知商品表示性
原告商品は、別紙原告商品目録1ないし4記載のとおりの特徴的な形態を有する。従来、キーホルダーにつけられるような小型の扁平した卵型で液晶画面が組込まれた玩具は存在していなかった。
原告商品は、その発売以来爆発的な人気を博し、一つの社会現象さえ引き起こしており、その特徴のある外形の写真などとともに、テレビ、新聞、雑誌などで度々取り上げられてきている。
したがって、原告商品の形態は、少なくともイ号商品が発売された平成九年四月上旬ころ以前に、玩具業者、直接の需要者である子供や少年少女はもちろんのこと、一般の社会人の間においても、原告バンダイの商品表示として極めて広く知られるようになっている。
(2) 原告商品とイ号商品との同一性、類似性
イ 号商品の形態は、縦約5.3センチメートル、横約4.3センチメートル、厚さ約1.8センチメートルの扁平した卵型をしていること、正面の中央やや上部に縦約2.1センチメートル、横約2.1センチメートルの大きさの白黒表示の液晶画面が組込まれていること、その下に三つのボタンが設けられていることにおいて、原告商品の形態と全く同じであり、液晶画面のまわりのギザギザ模様のへこみがないことにおいて原告商品の形態と異なるものの、全体として、両者の形態は、実質的に同一ないし極めて類似しているというべきである。
(3) 原告商品とイ号商品との混同のおそれ
原告商品とイ号商品とは、前記のとおり、その形態が実質的に同一ないし極めて類似しているうえ、イ号商品が、原告商品の商品名「たまごっち」に類似した「ニュータマゴウォッチ」という商品名で販売されていることなどからして、混同のおそれがある。
(4) 以上によれば、イ号商品を輸入、販売する被告の行為は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に当たる。
(五) 損害
(1) 被告は、故意又は過失により、前記(三)及び(四)記載のとおり、不正競争防止法二条一項一号及び三号に当たる不正競争を行って原告バンダイの営業上の利益を侵害したから、原告バンダイに対し、これによって生じた損害を賠償する責任がある。
(2) 原告バンダイの損害
① 被告は、平成九年四月上旬ころから同年八月上旬ころまでの間に、イ号商品を少なくとも一〇〇万個輸入し、販売した。
② イ号商品一個当たりの小売価格は二〇〇〇円であり、仕入価格は平均一二〇〇円であるから、右販売によって被告が得た利益は、イ号商品一個当たり五〇〇円となり、合計五億円を下回らない。
③ 右販売によって被告が得た利益の額は、それによって原告バンダイが受けた損害の額と推定されるから、被告がイ号商品を販売したことによって原告バンダイが受けた損害は、五億円を下回らない。
(六) よって、原告バンダイは、被告に対し、(1)不正競争防止法三条一項、二条一項一号及び三号(単純併合)に基づき、イ号商品の輸入、譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示の差止め、(2)不正競争防止法三条二項、二条一項一号及び三号(単純併合)に基づき、イ号商品の廃棄、(3)主位的には不正競争防止法四条、二条一項一号により、予備的には同法四条、二条一項三号により、前記損害額五億円の内金二億五〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成九年五月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 意匠権に基づく請求
(一) 原告両名の意匠権
原告両名は次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。
登録番号 第九九三三八三号
登録年月日 平成九年六月一三日
出願年月日 平成八年一二月一六日
意匠に係る物品 ゲーム機
登録意匠 別紙意匠目録のとおり
(二) 本件意匠の構成
本件意匠の構成は以下のとおりである。
(1) 躯体が正・背面方向に扁平で、左右方向が略卵形状を呈するものであって、
(2) 正面側パネルと背面側パネルとを前後から合わせた構成のものであり、
(3) 正面側パネル略中央位置には、一辺が全体の左右幅の略半分幅程度の長さで略方形をなす液晶表示画面が開設され、
(4) 右液晶表示画面の周辺部には、不等直線によりジグザグに屈曲した輪郭ラインで囲繞された段差状凹陥面を形成し、
(5) 正面側パネル上の右液晶表示画面の下方位置に、三個の小円形押しボタンスイッチが散点状に突設され、
(6) 背面側パネルには、上下両辺を水平に切り欠き、左右両辺は意匠全体の左右輪郭ラインと並行に形成された形状を有する裏蓋が嵌合され、
(7) 躯体上端位置には、躯体吊下用紐通し孔部が上方に向けて突設配置されたものである。
(三) 別紙被告商品目録(二)記載のゲーム機について
(1) 被告は、別紙被告商品目録(二)記載のゲーム機(以下「ロ号商品」といい、その意匠を「ロ号意匠」という。)を業として輸入し、販売している。
(2) ロ号意匠は以下の構成を有している。
① 躯体が正・背面方向に扁平で、左右方向が略卵形状を呈するものであって、
② 正面側パネルと背面側パネルとを前後から合わせた構成のものであり、
③ 正面側パネル略中央位置には、一辺が全体の左右幅の略半分幅程度の長さで略方形をなす液晶表示画面が開設され、
④ 正面側パネル上の右液晶表示画面の下方位置に、三個の小円形押しボタンスイッチが散点状に突設され、
⑤ 背面側パネルには、上下両辺を水平に切り欠き、左右両辺は意匠全体の左右輪郭ラインと並行に形成された形状を有する裏蓋が嵌合され、
⑥ 躯体上端位置には、躯体吊下用紐通し孔部が上方に向けて突設配置されたものである。
(3) ロ号意匠の構成は、前記(二)の本件意匠の構成中(4)の構成を欠く以外は、本件意匠の構成と同一であり、右の差異は、全体の意匠から観察すると微差にすぎず、両意匠の美感は共通するものであって、意匠としての同一性の範囲内にあるといえる。
仮に両意匠が同一性の範囲内にないとしても、明らかに類似するものである。
(四) 別紙被告商品目録(三)記載のゲーム機について
(1) 被告は、別紙被告商品目録(三)記載のゲーム機(以下「ハ号商品」といい、その意匠を「ハ号意匠」という。)を業として輸入し、販売している。
(2) ハ号意匠は以下の構成を有している。
① 躯体が正・背面方向に扁平で、左右方向が略卵形状を呈するものであって、真円形に近い形状であり、
② 正面側パネルと背面側パネルとを前後から合わせた構成のものであり、
③ 正面側パネル略中央位置には、一辺が全体の左右幅の略半分幅程度の長さで略方形をなす液晶表示画面が開設され、
④ 右液晶表示画面の回りに、角丸に四角く囲繞された段差状凹陥面を形成し、
⑤ 正面側パネル上の前記液晶表示画面の左右に、二個ずつの小円形押しボタンスイッチが設けられ、
⑥ 背面側パネルには、電池を収納する裏蓋が嵌合され、
(7) 躯体上端位置には、躯体吊下用紐通し孔部が上方に向けて突設配置されたものである。
(3) ハ号意匠は、本件意匠と比較し、縦横比が本件意匠より横に幅広となりやや円形に近いこと、液晶表示画面の回りに形成された段差状凹陥部の輪郭形状、押しボタンスイッチの数及び位置において異なるが、両意匠を全体として観察すれば、右の差異は微差にすぎず、全体として丸味を帯びた卵型の美感において明白に類似してり、意匠としての類似性は明らかである。
(五) よって、原告両名は、被告に対し、本件意匠権に基づき、ロ号商品及びハ号商品の輸入、譲渡、貸渡し、譲渡若しくは貸渡しのための展示の差止め並びにロ号商品及びハ号商品の廃棄を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1(一) 請求原因1(一)のうち、(1)の事実は認め、(2)の事実は知らない。
(二) 同1(二)のうち、訴外ケイデイワイがイ号商品を輸入し、販売していることは認め、その余の事実は否認する。
(三) 同1(三)の事実は否認する。
原告商品は生れた後の割れた卵からデザインを起こし、上下の中央にひび割れ状の割れ型線があるのに対し、イ号商品は卵に窓を付けた生れる前の割れていない卵からデザインし、割れ型線がないうえ、イ号商品の形態は、液晶表示画面のまわりのギザギザ模様などがない点において、原告商品の形態と異なっている。
(四)(1) 同1(四)(1)の事実のうち、「たまごっち」なる名称のゲーム機の存在がマスコミ等において取り上げられ、一定の人気を有していることは認め、その余は否認する。
キーホルダーにつけれるような小型で液晶画面が組込まれているような玩具は以前より多数存在し、かつ、扁平した卵型のものも存在する。
(2) 同1(四)(2)の事実は否認する。
前記(三)記載のとおり、イ号商品の形態は、原告商品の形態と異なっている。
(3) 同1(四)(3)の事実は否認する。
原告商品とイ号商品とは、前記(三)記載のとおり形態に相違があり、また、商品の包装が全く異なるうえ、イ号商品も発売前からマスコミで紹介されたから、購入者が誤認するおそれはないし、混同を生じた例は皆無に等しい。
(五) 同1(五)のうち、イ号商品一個当たりの小売価格が二〇〇〇円であることは認め、その余の事実は否認する。イ号商品の仕入価格は一個当たり平均4.5ないし6.5米ドルであった。
2(一) 請求原因2(一)の事実は認める。
(二) 同2(二)ないし(四)の事実は否認ないし争う。
第三 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一 請求原因1(不正競争防止法に基づく請求)について
一1 請求原因1(一)(1)の事実は、当事者間に争いがない。
2 いずれも成立に争いのない甲第四号証、甲第五号証及び甲第九号証、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第一二号証及び甲第二五号証、原告商品であることに争いのない検甲第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告バンダイが、原告商品を「たまごっち」という商品名で、平成八年一〇月一〇日に東京及び大阪でテストセールスを行った後、同年一一月下旬に全国で販売を開始し、以後現在に至るまでその販売を継続していることが認められる。
二 請求原因1(二)(被告の行為)について
1 請求原因1(二)のうち、訴外ケイデイワイがイ号商品を輸入、販売していることは、当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第六号証、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第八号証、甲第一〇号証、及び甲第一三号証、イ号商品であることに争いのない検甲第二号証、ロ号商品であることに争いのない検甲第三号証、いずれもテレビ番組の一部を録画したものであることに争いのない検甲第七号証ないし検甲第九号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 平成九年四月五日、イ号商品が「ニュータマゴウオッチ」という商品名で、東京及び大阪において発売され、その後も販売が行われてきた。
(二) イ号商品の本体裏側及び包装台紙裏側には「MADE IN CHINA」と記載され、包装台紙裏側には、発売元として「株式会社KDY」と記載されている(検甲第二号証)。他方、イ号商品と全く同じ形態を有するロ号商品の包装台紙裏側には、「MADE IN CHINA」、発売元として「(株)永光」と記載され、ロ号商品は「ドラゴッチ」なる商品名で販売されている(検甲第三号証)。
(三) 原告バンダイが、被告及び分離前相被告幸田均(訴外ケイデイワイの代表取締役)に対し、不正競争防止法二条一項三号に基づき、イ号商品の輸入、販売等の差止めを求めた仮処分申立事件(当庁平成九年(ヨ)第二二〇六〇号)の平成九年七月八日の審尋期日において、被告代表者は、平成九年四月頃からの訴外ケイデイワイによるイ号商品の輸入、販売に被告が協力していることを認める旨の陳述をした(甲第六号証)。
(四) 被告は、平成九年五月一五日付けで、訴外カシオ計算機株式会社(以下「訴外カシオ」という。)との間で、「ニュータマゴウオッチ」という名称の携帯用卵型の液晶表示ゲーム機を製造、販売することにつき、被告が訴外カシオから、同社が特許出願中の発明について実施の許諾を受け、被告が訴外カシオに対し、一定の実施料を支払う旨の契約を締結した(甲第八号証)。
(五) 「ニュータマゴウオッチ」なる商品は原告商品「たまごっち」の類似品として、雑誌やテレビのニュース番組等で取り上げられたところ、そのなかで、被告代表者小山良の発言等が以下のとおり紹介されている。
(1) ゲームの批評雑誌である「ゲーム批評」平成九年七月号の育成バーチャルゲームに関する特集記事において、「たまごっち」のブームが取り上げられ、そのなかで、「たまごっち」の類似品の一つである「ニュータマゴウオッチ」を販売する業者として被告が紹介されたうえ、被告の代表者小山良の発言として、「ニュータマゴウオッチは、昨年八月末に永光が台湾の企業に依頼して独自に開発した物で……」、「我々は適正な価格で商品を提供することで、バンダイの起こした社会現象の後始末をしているつもりです。」などの発言が掲載され、さらに、平成九年五月五日に秋葉原で行われた「ニュータマゴウオッチ」の販売イベントが紹介され、そのなかで、「永光主催のイベント」、「永光が用意した、税込み二〇〇〇円、一万一〇〇〇個のニュータマゴウオッチ」などの記述がみられる(甲第五号証)。
(2) 週刊朝日平成九年四月一八日号の記事では、「ニュータマゴウオッチ」が「たまごっち」の類似品として取り上げられ、その発売元として訴外ケイデイワイが紹介されるとともに、これを輸入する貿易商として被告代表者小山良が紹介されたうえ、「たまごっち」がオリジナリティーのある商品ではない旨の被告代表者の発言が掲載されている(甲第一〇号証)。
(3) 平成九年四月九日放送のテレビ朝日の番組「スーパーモーニング」では、被告代表者小山良が、「ニュータマゴウオッチ」の企画者として紹介され、記者の質問に対して、「はっきり言ってバンダイと勝負をしたいと、だからいい商品を認めてもらえると、だから逆にバンダイが悪ければ、これからもどんどん出していく商品の方がマーケットに残るでしょうし、まあ私たちとすればマーケットの七割はとりたい……」などと答えている(検甲第七号証)。
(4) 平成九年五月五日放送の日本テレビの番組「NNNニュース」では、同日の秋葉原における「ニュータマゴウオッチ」の販売イベントが紹介され、右販売イベントの現場において被告代表者小山良が、「ニュータマゴウオッチ」の販売会社の代表として紹介され、「バンダイの物ではありませんと公示しながら売っております。今後もどんどん新しい物を売るつもりです。」などと発言している(検甲第八号証)。
(5) 平成九年四月九日放送のテレビ朝日の番組「ワイド!スクランブル」では、「たまごっち」の類似品の輸入元の一つとして、訴外ケイデイワイの事務所が紹介され、「仕掛人(株)永光 小山良さん」とのテロップ表示を付された被告代表者小山良が、右事務所内において、段ボール箱を前に記者の質問を受け、右段ボール箱に入っているのがその日に台湾から入荷した一〇〇〇個の商品サンプルであること、今後も三日ごとに五〇〇〇個くらいずつ入荷することなどを説明したうえで、右段ボール箱から、包装台紙に「ニュータマゴウオッチ」と表示された商品を取り出して示すなどしている(検甲第九号証)。
3 右2(四)認定の契約の内容からすると、同契約は、被告が「ニュータマゴウオッチ」なる商品の製造、販売の主体であるとの前提の下で締結されたものと理解せざるを得ず、また、前記2(五)認定の各雑誌やテレビ番組は、いずれも、被告代表者への取材に基づいて、被告ないし被告代表者を「ニュータマゴウオッチ」を輸入ないし販売する主体として認識してその旨の紹介をし、また、被告代表者も右取材に対して、「ニュータマゴウオッチ」が被告が主体となって取り扱う商品であることを前提とする趣旨の発言をしていることが認められ、これらの事実に前記2(二)認定のとおりイ号商品と全く同じ形態で商品名が異なるロ号商品を被告が販売していること及び前記2(三)認定の仮処分事件の審尋期日における被告代表者の陳述内容などを総合すると、被告がイ号商品の企画、輸入、販売に主体として深く関与していることは明らかというべきであり、イ号商品の包装台紙裏側に発売元として表示されているのが訴外ケイデイワイのみであることを考慮しても、イ号商品の輸入及び販売は、被告が訴外ケイデイワイと共同してこれを行っているものと推認される。
三 請求原因1(三)(不正競争防止法二条一項三号の不正競争行為)について
1 前掲甲第四号証及び検甲第一号証によれば、原告商品の形態は、別紙原告商品目録添付の写真のとおりであり、その特徴が以下のとおりであると認められる(なお、前掲甲第四号証によれば、原告商品の本体部分の色彩及び正面部の液晶表示画面の周りの模様については、種々多様なモデルが販売されていることが認められるのであり、したがって、これらの点は、原告商品全体における形態的特徴を構成する要素とはならないものと認められる。)。
(一) 本体部分は、プラスチック製で全体に丸味を帯びた扁平の卵型をしており、大きさは、縦約5.3センチメートル、横約4.3センチメートル、厚さ約1.8センチメートルである。
(二) 本体部分の正面の中央やや上部に、縦横約2.1センチメートルでほぼ正方形の液晶表示画面が設けられている。
(三) 本体部分の液晶表示画面の周囲には、ギザギザ状の窪みが設けられている。
(四) 液晶表示画面の下方には、横に並べて三つの小さな丸い操作ボタンが設けられており、中央のボタンが他のボタンよりやや低い位置にある。
(五) 本体部分の背面には、上下両辺を水平に切り欠き、左右は本体部分の左右輪郭ラインと並行に形成された形状の裏蓋がはめ込まれている。
(六) 本体部分の上端位置には、紐通し孔が上方に向けて突出している。
(七) 右紐通し孔には、小さな金属製の円形リングが挿通され、さらに、右リングには環状の金属製チェーンが挿通されている。
2 他方、前掲検甲第二号証によれば、イ号商品の形態は、別紙被告商品目録(一)添付の写真のとおりであり、その特徴を原告商品の形態に対応させると以下のとおりであると認められる。
(一) 本体部分は、プラスチック製で全体に丸味を帯びた扁平の卵型をしており、大きさは、縦約5.3センチメートル、横約4.3センチメートル、厚さ約1.8センチメートルである。
(二) 本体部分の正面の中央やや上部に、縦横約2.1センチメートルでほぼ正方形の液晶表示画面が設けられている。
(三) 本体部分の液晶表示画面の周囲には、窪みはなく、なめらかな表面となっている。
(四) 液晶表示画面の下方には、横に並べて三つの小さな丸い操作ボタンが設けられており、中央のボタンが他のボタンよりやや低い位置にある。
(五) 本体部分の背面には、上下両辺を水平に切り欠き、左右は本体部分の左右輪郭ラインと並行に形成された形状の裏蓋がはめ込まれている。
(六) 本体部分の上端位置には、紐通し孔が上方に向けて突出している。
(七) 右紐通し孔には、小さな金属製の円形リングが挿通され、さらに、右リングには環状の金属製チェーンが挿通されている。
3 前記1及び2によれば、原告商品とイ号商品の形態の特徴を比較すると、イ号商品では、前記1(三)記載のような液晶表示画面の周囲のギザギザ状の窪みがなく、全体になめらかな表面となっている点が異なることを除き、その他の形態は、原告商品とほぼ同一であることが認められる。
そして、前記認定のとおり、原告商品とイ号商品とは、その形態のほとんどの特徴を共通にし、とりわけ、本体部分全体の輪郭形状や寸法、正面に設けられた液晶表示画面の位置や寸法、操作ボタンの配置や形状といった形態の基本的な構成態様ないし液晶ゲーム機としての重要な構成要素において、全くといっていいほどの同一性を有するのに対し、両者の形態の唯一の相違点である液晶表示画面周囲のギザギザ状の窪みについては、原告商品全体の形態において、液晶ゲーム機としての重要な構成要素とはいえず、正面部の液晶表示画面の周りに付された種々の模様などとともにデザインの一部を構成する付随的な部分にすぎないものと認められることを考慮すれば、原告商品とイ号商品とは、実質的に同一の形態を有するものと評価し得る。
4 右認定のとおり、原告商品とイ号商品の形態が基本的な構成態様や液晶ゲーム機としての重要な構成要素のほか、裏蓋や紐通し部などの細部に至るまで酷似していることのほか、前記一2、二2及び後記四1認定のとおり、平成八年一一月下旬に原告商品が発売されて爆発的なヒット商品となり、その後右原告商品の発売から四か月以上経ってからイ号商品が発売されていること、イ号商品に使用されている商品名が「ニュータマゴウオッチ」であり、原告商品の商品名「たまごっち」と称呼及び観念において類似するといえることなどの事情を考慮すれば、イ号商品が原告商品に依拠して作られたものであるものと推認することができる。
5 以上によれば、イ号商品は、原告商品の形態を模倣した商品であると認められるから、イ号商品を訴外ケイデイワイと共同で輸入し、販売する被告の行為は、不正競争防止法二条一項三号の不正競争行為に該当する。
四 請求原因1(四)(不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為)について
1 原告商品の形態の周知商品表示性について
(一) 前記三1認定のとおり、原告商品の形態は、別紙原告商品目録添付の写真のとおりであり、その特徴は前記三1(一)ないし(七)記載のとおりであるところ、そのうち、本体部分の全体形状が全体に丸味を帯びた扁平の卵型をなしているという形態は、とりわけ印象の強い独自の形態というべきである。また、いずれも成立に争いのない甲第一号証、甲第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、ゲーム機を対象として過去一五年間に登録された登録意匠に係る意匠公報を調査した結果を報告した先行意匠調査報告書において、ゲーム機ないしゲーム器の先行意匠としては、略方形のもの及びその辺又は角に丸味を帯びさせたものが多く、星型や略円形のものも存在するが、扁平の卵型をなしているものは存在しないこと、原告商品から円形リング及び金属製チェーンをはずした意匠が、原告両名によって意匠登録されたことが認められ、右事実によれば、原告商品の右形態は、液晶ゲーム機の分野において、特異性をもった形態ということができる。
この点に関し、被告は、キーホルダーにつけられるような小型で液晶画面が組込まれている玩具は以前より多数存在し、そのなかには、原告商品のような扁平した卵型のものも存在する旨主張するが、右主張に沿う証拠はなく、前記認定を左右しない。
(二) 前掲甲第五号証、甲第九号証、甲第一〇号証、甲第一二号証、甲第一三号証、甲第二五号証、検甲第七号証ないし第九号証、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第一一号証、甲第一四号証ないし第二四号証、甲第二六号証ないし第三四号証、甲第三六号証の一ないし六、甲第三七号証、成立に争いのない甲第三八号証によれば、原告商品は、平成八年一一月下旬の発売以来中高生などを中心に爆発的なヒット商品となり、全国的な品不足のために、各地の販売店で原告商品を求める長蛇の行列ができたり、高額のプレミアム価格がついたり、類似品が氾濫するなどの社会現象を引き起こしたこと、平成九年一月ころから同年夏ころにかけて、原告商品のブームが右のような社会現象とともに、頻繁にテレビ、新聞、雑誌などで取り上げられ、そのなかでは、原告商品の形態も写真などによって頻繁に紹介されたこと、一商品当たり一〇万個でヒット商品といわれる玩具業界において、原告商品は、国内での累計販売個数が、平成九年四月末までに約五〇〇万個、同年九月末までに約一三〇〇万個に達していること、流行情報誌「日経トレンディ」の平成九年一二月号の記事「九七年ヒット商品ベスト三〇」において、原告商品が平成九年のヒット商品の第一位に選ばれていることが認められる。
(三) 商品の形態は、第一次的には、商品の実質的機能の発揮や美感の向上等のために選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果として、商品の形態が、商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合があるというべきであるところ、前記(一)認定のとおり、原告商品の形態が同種商品のなかで特異性を有すること、また前記(二)認定のとおり、原告商品が平成八年一一月の発売以来現在に至るまで記録的なヒット商品として全国で大量に販売され、その形態も含めて頻繁にテレビ、新聞、雑誌などに取り上げられてきたことのほか、原告バンダイが玩具業界における大手メーカーの一つとして著名な存在であること(当裁判所に顕著な事実)などを総合すれば、原告商品の形態は、遅くともイ号商品が発売された平成九年四月五日以前の時点において、わが国のこの種商品の取引者・需要者の間において、原告バンダイの商品であることを示す表示として周知の状態になり、さらにその後も同様の状態にあるものと認めることができる。
2 原告商品とイ号商品との同一性、類似性について
原告商品の形態とイ号商品の形態とが実質的に同一と認められることは、前記三1ないし3で認定したとおりである。
3 原告商品とイ号商品との混同のおそれについて
原告商品とイ号商品とは、前記三1ないし3記載のとおり、その形態が実質的に同一と認められるほどに酷似していることに加え、前掲検甲第一号証及び検甲第二号証によれば、両商品は、液晶画面上に表示されるペットを育成するというゲームの内容も酷似しているうえ、包装の態様も、カラフルな色彩の台紙とプラスチック製のカバーからなる点において類似していることが認められ、さらに、原告商品の商品名が「たまごっち」であるのに対し、イ号商品の商品名が「ニュータマゴウオッチ」であり、称呼、観念において類似すると認められること、原告商品ないしイ号商品の需要者層が商品の性格上かなりの低年齢層にも広く及ぶものと推認されることなどの諸事情をも総合考慮すると、需要者において、原告商品とイ号商品とを混同するおそれがあるものと認められる。
4 以上によれば、イ号商品を訴外ケイデイワイと共同で輸入し、販売する被告の行為は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当する。
五 請求原因1(五)(損害)について
1 前記認定のとおり、被告が訴外ケイデイワイと共同して、イ号商品を輸入、販売した行為は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当するところ、右不正競争を行うにつき、被告らに故意若しくは少なくとも過失があったこと、被告らの右不正競争によって原告バンダイが原告商品に関する営業上の利益を侵害されたことは明らかであるから、被告は、訴外ケイデイワイと連帯して、原告バンダイが被った損害を賠償する義務がある。
2 原告バンダイの損害について
(一) イ号商品の販売数量について
(1) 前掲甲第五号証、甲第八号証、甲第一二号証、甲第一三号証、検甲第七号証、検甲第九号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
① 被告は、訴外カシオとの間で前記二2(四)記載の実施許諾を受ける契約を締結したが、同契約によれば、実施許諾を受ける製品の名称としては、「ニュータマゴウオッチ」のほか、「ドラゴッチ」が挙げられ、実施料については、一個あたり二五円としたうえで、八万個分に相当する二〇〇万円を契約締結と同時に前払いするものとし、右八万個を超えた製造分にかかる実施料については月々これを支払うものとする一方、製造数量が八万個に達しないうちに製造が中止された場合には、右二〇〇万円の既払い実施料は返還しないものとされている(甲第八号証)。
② 被告は、平成九年五月五日、秋葉原において「ニュータマゴウオッチ」の販売イベントを行ったが、当日用意された一万一〇〇〇個の「ニュータマゴウオッチ」が数時間で完売した(甲第五号証)。
③ 平成九年四月九日放送のテレビ朝日の番組「スーパーモーニング」において、「ニュータマゴウオッチ」が「たまごっち」の類似品として取り上げられた際、前記二2(五)(3)記載のような被告代表者小山良の発言が紹介された後、記者のアナウンスで「この業者は六月までに一〇〇万個のニュータマゴウオッチを輸入するといい、バンダイのたまごっちとの全面戦争も辞さない構えだ。」との紹介がなされている(検甲第七号証)。
④ 平成九年四月九日放送のテレビ朝日の番組「ワイド!スクランブル」において、「たまごっち」の類似品の輸入元の一つとして、訴外ケイデイワイの事務所が紹介された際、「仕掛人(株)永光 小山良さん」とのテロップ表示を付された被告代表者小山良が、右事務所内において、段ボール箱を前に記者の質問を受け、右段ボール箱に入っているのがその日に台湾から入荷した一〇〇〇個の商品サンプルであること、今後も三日ごとに五〇〇〇個くらいずつ入荷することなどを説明したうえで、右段ボール箱から、包装台紙に「ニュータマゴウオッチ」と表示された商品を取り出して示すなどし、さらに、これまでに中国からも同様の商品が約一万個入荷したことを説明した(検甲第九号証)。
⑤ 原告商品は記録的なヒット商品となり、その品不足の結果、イ号商品などの類似品にも相当の人気が集まった(甲第一二号証及び甲第一三号証)。
(2) 以上認定の事実を総合すれば、イ号商品の販売数量を直接認定しうる証拠はないものの、平成九年四月五日の発売以降、同年八月上旬までのイ号商品の販売数としては、少なくとも前記(1)①の被告と訴外カシオとの実施許諾契約において、一括前払いの実施料の対象とされた製品数八万個の半分に相当する四万個(同契約では、「ニュータマゴウオッチ」と「ドラゴッチ」という二つの商品名の製品が対象とされているから、右八万個のほぼ半分程度が「ニュータマゴウオッチ」、すなわちイ号商品に対応するものと推認される。)を下回らないものと認めることができる。
(3) 原告バンダイは、前記(1)③記載の「スーパーモーニング」での報道を根拠として、平成九年四月上旬ころから同年八月上旬ころまでのイ号商品の販売数は一〇〇万個に達する旨主張するが、右「スーパーモーニング」での報道は、平成九年四月九日の放送日前の取材に対して、被告代表者がその時点における今後の見込みとして発言した内容を伝えるものにすぎないと認められるから、右事実のみによって、イ号商品の現実の販売数が一〇〇万個にまで達することを認定し得るだけの根拠とはなり得ず、他に原告バンダイの右主張を認めるに足りる証拠はない。
(二) イ号商品の一個当たりの販売利益について
(1) 弁論の全趣旨及びこれにより原本の存在及びそれが真正に成立したものと認められる甲第四〇号証の一ないし五及び甲第四一号証によれば、原告バンダイは、原告株式会社ウイズ(以下「原告ウイズ」という。)から原告商品を一個当たり五八七円で仕入れ、これを一一〇九円で卸売りをしていること、原告商品の中国での製造、輸入、運搬の手続など一切の事務は原告ウイズが行い、右五八七円の仕入価格には、右事務経費及び原告ウイズの利益が含まれていること、したがって、原告バンダイは、原告商品一個当たり、右卸売価格と仕入価格の差額である五二二円程度の利益を得ていることが認められる。
(2) 他方、イ号商品の小売価格が二〇〇〇円であることは当事者間に争いがなく、原告商品の定価一九八〇円(前掲甲第九号証など)とほぼ同じであること、イ号商品は、原告商品に、その形態、ゲーム内容が酷似した類似品であり、原告商品の記録的なヒットとその品不足の結果、イ号商品などの類似品にも相当の人気が集まったことなどを考慮すれば、被告及び訴外ケイデイワイがイ号商品を卸売りする際の価格は、少なくとも原告商品の前記卸売価格をさほど下回らないことが推認される。
また、イ号商品に係る仕入価格その他の費用については、イ号商品が原告商品を模倣した商品であり、原告商品に比して開発費などの負担が少ないと思われること、原告商品が原告ウイズを介して輸入の手続等がなされ、原告ウイズの利益分が仕入価格に含まれるのに対し、イ号商品は、被告及び訴外ケイデイワイによって直接輸入が行われることなどを考慮すると、イ号商品の仕入価格その他の費用は、原告商品の前記仕入価格を上回らないものと推認される。
(3) したがって、被告及び訴外ケイデイワイが、イ号商品を輸入し、小売りないし卸売の方法で販売することによって得るイ号商品一個当たりの利益は、少なくとも平均五〇〇円を下回らないものと推認することができる。
(三) 以上によれば、被告及び訴外ケイデイワイが、共同でイ号商品を平成九年四月五日から同年八月上旬までの間に輸入、販売したことによって得た利益は、五〇〇円の四万個分で合計二〇〇〇万円を下回らないものと認められ、不正競争防止法五条一項により、右利益の額は、原告バンダイが被った損害の額と推定される。
六 まとめ
1 前記認定のとおり、原告商品とその形態を実質的に同一にし、市場において原告商品と混同されるおそれのあるイ号商品が被告によって輸入、販売されることにより、原告バンダイが原告商品に関する営業上の利益を侵害されていることは明らかであるから、原告バンダイの請求のうち、被告に対し、不正競争防止法三条一項、二条一項一号及び三号に基づき、イ号商品の輸入、譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示の差止めを求める部分は理由がある。
2 また、イ号商品は、前記不正競争に当たる侵害行為を組成した物と認められるから、原告バンダイの請求のうち、被告に対し、不正競争防止法三条二項、二条一項一号及び三号に基づき、前記差止めとともに、イ号商品の廃棄を求める部分は理由がある。
3 原告バンダイの請求のうち、被告に対し、不正競争防止法四条、二条一項一号に基づく損害賠償として、訴外ケイデイワイと連帯して二〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成九年八月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由がある(なお、遅延損害金については、本件訴状送達の前後で損害額をそれぞれ認定することができない以上、被告のイ号商品の販売行為の終期である平成九年八月上旬の後であることが明らかな同年八月一一日に遅滞におちいったものと認める。)。
第二 請求原因2(意匠権に基づく請求)について
一1 請求原因2(一)の事実(原告両名が本件意匠権を有すること)は、当事者間に争いがない。
2 請求原因2(二)(本件意匠の構成)について
本件意匠を表示するものであることに争いのない別紙意匠目録の写真によれば、本件意匠の構成は、次のとおりであることが認められる。
(一) 正面視及び背面視の輪郭が略卵形状であり、平面視、底面視及び側面視の輪郭は細長で両端は丸味を帯び、全体としては正・背面方向に扁平な卵型である。
(二) 正面側パネルと背面側パネルとを合わせた構成である。
(三) 正面側パネルには、略中央位置に一辺が全体の左右幅の略半分幅程度の長さで略正方形をなす液晶表示画面が開設されている。
(四) 右液晶表示画面の周辺部には、不等直線によりジグザグに屈曲した輪郭ラインで囲繞された段差状凹陥面が形成されている。
(五) 正面側パネル上の右液晶表示画面の下方位置に、三個の小円形押しボタンスイッチが散点状に突設されている。
(六) 背面側パネルには、上下両辺を水平に切り欠き、左右両辺は意匠全体の左右輪郭ラインと並行に形成された形状を有する裏蓋が嵌合され、裏蓋には三個の小孔がある。
(七) 躯体上端位置には、躯体吊下用紐通し孔部が上方に向けて突設配置されている。
3 本件意匠の要部について
登録意匠に係る物品の性質及び用途、登録意匠の出願前の公知意匠等を参酌して、具体的な取引の場で需要者の注意を強く惹く部分をもって意匠の要部と解すべきところ、本件意匠にかかる物品がゲーム機であって、意匠登録願には、その説明として、正面中央部に液晶表示部を有した携帯型のゲーム機である旨の記載があること(甲第二号証)、また、前記第一の四1(一)認定のとおり、ゲーム機ないしゲーム器の先行意匠としては、略方形のもの及びその辺又は角に丸味を帯びさせたものが多く、星型や略円形のものも存在するが、扁平の卵型をなしているものは存在したと認めるに足りないことからすれば、本件意匠の要部は、躯体の輪郭形状が全体に丸味を帯びた扁平な略卵形状をなしているという基本的構成態様(前記2(一))、正面略中央位置に開設された液晶表示画面の大きさ及び形状(前記2(三))にあるものと解される。
二 請求原因2(三)(ロ号商品)について
1 ロ号商品であることに争いのない検甲第五号証によれば、ロ号商品の包装台紙裏側には、「MADE IN CHINA」の記載及び発売元として被告の名称とその本店所在地の住所の記載があることが認められ、右事実と弁論の全趣旨を総合すれば、被告がロ号商品を業として輸入、販売していることが認められる。
2 前掲検甲第五号証によれば、ロ号意匠の構成は、次のとおりであることが認められる。
(一) 正面視及び背面視の輪郭が略卵形状であり、平面視、底面視及び側面視の輪郭は細長で両端は丸味を帯び、全体としては正・背面方向に扁平な卵型である。
(二) 正面側パネルと背面側パネルとを合わせた構成である。
(三) 正面側パネルには、略中央位置に一辺が全体の左右幅の略半分幅程度の長さで略正方形をなす液晶表示画面が開設されている。
(四) 右液晶表示画面のまわりには段差状凹陥面は形成されていない。
(五) 正面側パネル上の右液晶表示画面の下方位置に、三個の小円形押しボタンスイッチが散点状に突設されている。
(六) 背面側パネルには、上下両辺を水平に切り欠き、左右両辺は意匠全体の左右輪郭ラインと並行に形成された形状を有する裏蓋が嵌合され、裏蓋には三個の小孔がある。
(七) 躯体上端位置には、躯体吊下用紐通し孔部が上方に向けて突設配置されている。
3(一) そこで、本件意匠の構成とロ号意匠の構成とを対比すると、正面側の液晶表示画面の周辺部の形状につき、本件意匠では、不等直線によりジグザグに屈曲した輪郭ラインで囲繞された段差状凹陥面(前記一2(四)の構成)が存在するのに対し、ロ号意匠には右のような凹陥面がなく、全体がなめらかな表面となっている点が異なるのみで、その他の構成(前記一2(一)ないし(三)及び(五)ないし(七)と前記二2(一)ないし(三)及び(五)ないし(七)の点)はほぼ共通していることが認められる。
(二) そして、前記一3認定の本件意匠の要部については、ロ号意匠もほぼ同一であると認められ、両意匠は、扁平した略卵形状という基本的構成態様のほか、ゲーム機という物品の性質上重要な構成態様と考えられる液晶表示画面の位置、形状、大きさなどにおいて共通している。
これに対して、相違している液晶表示画面周辺部の形状は、その位置が正面中央部の液晶表示画面の周辺であり、かつその形状が特徴的ではあるものの、結局のところ、ゲーム機としての重要な構成要素とはいえない付随的なデザイン部分にすぎないというべきであるから、全体的に観察して前記のような基本的構成態様及び重要な構成態様の同一性という両意匠の要部が共通であることから生じる共通の視覚的印象を凌駕して異なる意匠的効果を発揮するに足りるほどの相違点とは認められない。
(三) したがって、ロ号意匠は、本件意匠に類似しているものと認められる。
三 請求原因2(四)(ハ号商品)について
1 ハ号商品であることに争いのない検甲第六号証によれば、ハ号商品の包装台紙裏側には、「MADE IN CHINA」の記載及び発売元として被告の名称とその本店所在地の住所の記載があることが認められ、右事実と弁論の全趣旨を総合すれば、被告がハ号商品を業として輸入、販売していることが認められる。
2 前掲検甲第六号証によれば、ハ号意匠の構成は、以下のとおりであることが認められる。
(一) 正面視及び背面視の輪郭は上部がやや尖り、下部がほぼ円形の略卵形状であり、平面視、底面視及び側面視の輪郭は細長で両端は丸味を帯び、全体としては正・背面方向に扁平な卵型である。
(二) 正面側パネルと背面側パネルとを合わせた構成のものである。
(三) 正面側パネルの略中央位置に、左右の一辺が全体の左右幅に対して略半分幅程度の長さでやや横長の略方形をなす液晶表示画面が開設されている。
(四) 右液晶表示画面のまわりに、角丸に四角く囲繞された段差状凹陥面が形成されている。
(五) 正面側パネル上の前記液晶表示画面の左右に、二個ずつの小円形押しボタンスイッチが縦に並んで設けられている。
(六) 背面側パネルの右側には、上下両辺及び左辺は角丸の縦長の長方形状をなし、右辺は意匠全体の輪郭ラインと並行に形成された形状を有する裏蓋が嵌合され、裏蓋には四個の小孔がある。
(七) 躯体上端位置には、小孔が設けられ、そのなかに躯体吊下用紐通し部が設けられている。
3 そこで、本件意匠の構成とハ号意匠の構成とを対比すると、次のとおりである。
(一) 躯体全体の輪郭形状について
本件意匠とハ号意匠は、平面視、底面視及び側面視の輪郭が細長で両端が丸味を帯び、全体としては正・背面方向に扁平であることにおいて共通するが、正面視の輪郭形状において、本件意匠が略卵形状であるのに対して、ハ号意匠は、縦横比がやや横に広くなり、その結果卵形状より真円に近い形状となっていること及び上部がやや尖った形状となっていることにおいて、本件意匠と相違する。
しかしながら、両意匠の全体の輪郭形状は、いずれも、全体としてなめらかな丸味を帯びた卵形状の輪郭から生じる美感、印象において、明らかに類似するものといえ、前記相違点は、右美感の共通性を損なうほどの重要な相違とはいえない。
(二) 本件意匠とハ号意匠は、正面側パネルと背面側パネルとを組合わせた構成であることにおいて共通している。
(三) 正面側パネル上の液晶表示画面について
両意匠は、正面側パネル上の略中央位置に液晶表示画面が設けられている点において共通するが、右液晶表示画面の形状が、本件意匠では略正方形であるのに対し、ハ号意匠ではやや横長の長方形であること、右液晶表示画面の正面部全体に占める大きさがハ号意匠の方がやや大きいことにおいて、相違する。
しかしながら、右相違点はいずれも、僅かな寸法の違いにすぎず、看者の注意を惹かない目立たない相違であり、右液晶表示画面の位置、形状、大きさに関しては、両意匠はほぼ共通するものというべきである。
そして、右液晶表示画面は、ゲーム機としての重要な構成部分の一つであ
り、看者の注意の対象となる部位の一つといえるから、その位置、形状、大きさの共通性は、意匠全体としての類似性を基礎づける一つの要素となり得るものである。
(四) 液晶表示画面の周辺部の形状について
両意匠は、いずれも正面部の液晶表示画面の周辺部に段差状凹陥部が設けられているところ、同部を囲繞する輪郭ラインの形状について、本件意匠では不等直線によりジグザグ状に屈曲した形状であるのに対し、ハ号意匠では角丸の四角い形状であり、この点において相違する。
右液晶表示画面周辺部の形状は、その位置が正面中央部の液晶表示画面の周辺であり、かつ本件意匠の形状が特徴的であるものの、結局のところ、ゲーム機としての重要な構成部分とはいえない付加的なデザイン部分にすぎないというべきであるから、両意匠の類比の判断を左右するとはいえず、全体の輪郭形状や液晶表示画面の位置、形状、大きさの類似性からもたらされる両意匠の美感、印象の共通性を阻害するほどの重要な相違点とは認められない。
(五) 正面側パネル上のボタンスイッチについて
両意匠には、いずれも正面部にゲーム操作用の小円形押しボタンスイッチが設けられているが、その数及び配置について、本件意匠では液晶表示画面の下方に三個が散点状に設けられているのに対し、ハ号意匠では液晶表示画面の左右に二個ずつが縦に並んで設けられている点において相違する。
そして、右ボタンスイッチは、携帯型ゲーム機に必要な操作を行う機能を有するものであり、ゲーム機全般に共通して存在する部位であること、その数や配置は、ゲーム機の機能、操作性、大きさ、配置スペースなどとの関係で自ずから限定される性質のものであり、同種のゲーム機においてさほどの多様性があるとは考えられないこと、本件意匠及びハ号意匠における配置をみても、いずれもゲーム機の操作性などから自然に導かれるありふれた配置であることなどの事情を考慮すれば、右ボタンスイッチの数が三個であるか四個であるか、また、配置が液晶表示画面の下部にあるか左右にあるかの違いが強く看者の注意を惹くものとはいえないというべきである。
したがって、両意匠における右ボタンスイッチの数及び配置の相違は、全体の意匠の類否の判断を左右するものとは認められない。
(六) 本件意匠とハ号意匠は、背面側パネルに嵌合された裏蓋の形状並びに小孔の数及び配置において相違する。
右の点は、いずれも背面側という部位をも合わせ考えると、全体の意匠のなかでおよそ看者の注意を惹かない目立たない相違であるから、右相違点は、意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
(七) 本件意匠とハ号意匠とは、躯体上端位置の紐通し部の形状において相違する。
右の相違点は、躯体の上端という部位を考慮すれば、看者の注意を惹かない微細な相違にすぎない。
(八) 以上の検討をもとに、本件意匠とハ号意匠とを全体的に観察すると、両意匠は、要部に当たる躯体全体の輪郭形状(前記(一))及びゲーム機としての重要な構成部分の一つである液晶表示画面の位置、形状、大きさ(前記(三))において共通し、それが取引の場において看者の注意を強く惹くものであり、共通の視覚的印象をもたらすのに対し、相違している点は、いずれも看者の注意を強く惹かない重要性の低い構成であり、両意匠を全体として観察した場合の美感、印象に顕著な差異があるとはいえない。
(九) したがって、ハ号意匠は、本件意匠に類似しているものと認められる。
四 まとめ
1 ロ号意匠及びハ号意匠は本件意匠に類似し、物品も同一であるから、ロ号商品及びハ号商品を輸入し、販売する被告の行為は、本件意匠権を侵害するものと認められ、原告両名の請求のうち、被告に対し、本件意匠権に基づき、ロ号商品及びハ号商品の輸入、譲渡、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのための展示の差止めを求める部分は理由がある。
2 また、ロ号商品及びハ号商品は、本件意匠権の侵害行為を組成した物と認められるから、原告両名の請求のうち、被告に対し、前記差止めとともに、ロ号商品及びハ号商品の廃棄を求める部分は理由がある。
第三 結論
よって、原告両名の本訴請求は、主文第一項ないし第四項の限度で理由があるからこれを認容し、原告バンダイのその余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官髙部眞規子 裁判官榎戸道也 裁判官大西勝滋)
別紙被告商品目録(一)
商品名 ニュータマゴウオッチ
(外観形状は左記のとおり)
別紙被告商品目録(二)
商品名ドラゴッチ
(形態については写真のとおり)
別紙被告商品目録(三)
商品名 ドラゴッチ
(形態については写真のとおり)
別紙原告商品目録
形態は写真のとおり(表面の色彩及び絵柄を除く)
1、縦約5.3cm、横約4.3cm、厚さ約1.8cmの扁平した卵型をしており、正面の中央やや上部に縦約2.1cm、横約2.1cmの大きさの白黒表示の液晶画面が組み込まれている。
2、液晶画面の上下には横に帯状に絵文字が表示される部分があり、その間にドット表示により自由に絵や文字を表示できる部分が幅広に設けられている。
3、液晶画面の回りには卵の殻が割れたようなギザギザの窪みがつけられている。
4、液晶画面の下に横に並べて三つのボタンが設けられており、真ん中のボタンが少しだけ他のボタンより低くなっている。プレーヤーはこのボタンを操作した遊ぶようになっている。
別紙意匠目録